鋳鉄の溶解・注湯とは?成分調整から鋳型へ注ぐまでの工程
鋳鉄の溶解・注湯とは?
鋳型の準備と並行して、鋳型へ流し込む鉄を溶かす「溶解」を行います。
鋳造における溶解は、単に原材料を溶かすだけの工程ではありません。製造する材質に応じて原材料を配合し、化学成分や温度を調整したうえで、目的とする性質を持った「溶湯(ようとう)」をつくります。
完成した溶湯は炉から取鍋へ移す「出湯」を行い、接種や球状化処理など必要な処理を行った後、鋳型へ注湯します。
ここでは、当社で行っている鋳鉄の溶解から注湯までの基本的な流れをご紹介します。
※材質、製品形状、肉厚、重量などによって、配合や温度、処理方法などは異なります。
溶解から注湯までの流れ
1.原材料の準備と投入
当社では、高周波2t誘導炉を使用して鋳鉄を溶解しています。
溶解に使用する主な原材料は、銑鉄、スチールスクラップ、自社の製造工程で発生した戻り材です。また、目標とする化学成分に応じて、加炭剤、SiC、Fe-Mn、Fe-S、Fe-Pなどの副資材を使用します。
まず、炉底を保護するための役割として銑鉄をリフティングマグネットで投入します。
その後、スチールスクラップを炉の深さの半分程度まで投入し、加炭剤やSiC、Fe-Mn、Fe-S、Fe-Pなど、必要な副資材を投入します。
さらに炉内がいっぱいになるまでスチールスクラップを投入して通電を開始します。材料が溶けて炉内に空間ができるのに合わせて残りのスクラップを追加し、その後、戻り材を投入して溶解を進めます。
2.戻り材の再利用
当社では、型ばらしや仕上げ工程で製品から取り除いた堰や押湯などを「戻り材」として再利用しています。
また、最後の注湯後に取鍋へ残った溶湯についても、スターティングブロックとして固め、次回以降の溶解原料として使用します。
戻り材はすべて同じものとして扱うのではなく、FC、FCDなど材質ごとに分別して管理します。
一度鋳造に使用した鉄も、適切に材質管理を行うことで再び溶解原料として利用することができます。
3.溶け落ち後の測温と成分調整
原材料がすべて溶け落ち、溶湯を採取できる状態になったら温度を測定します。
当社では、溶け落ち後の約1,360℃を目安に一度測温し、その後さらに昇温します。
約1,420℃に近づいた段階でもう一度測温し、Si値を調整するためにFe-Siを添加します。
Fe-Siが溶けた後、CEメーターを使用して溶湯の状態を確認します。測定結果が目標値から外れている場合には、必要に応じて成分を調整します。
その後、実際に注湯する製品に合わせて出湯温度を調整します。
注湯温度は肉厚などを基準として設定しますが、それだけで決定するものではありません。当社では、過去に発生した焼きつきや引けなどの実績も踏まえ、製品ごとに適切な温度を設定しています。
4.FCとFCDで異なる原材料と成分管理
FC(片状黒鉛鋳鉄)とFCD(球状黒鉛鋳鉄)では、求められる化学成分や機械的性質が異なるため、使用する原材料もそれぞれ管理しています。
銑鉄、スチールスクラップ、戻り材はFC用とFCD用で区別し、それぞれ目標とする成分値に応じて配合率を調整します。
特にFCDでは、要求される強度などに応じてMn、P、Sなどの成分を管理する必要があります。
そのため、FCDでは基本的にC・Siの高い銑鉄と、Mn・P・Sの低いスチールスクラップを使用し、出湯前に発光分光分析を行って成分値を確認します。
目標値から外れている場合には、分析結果に基づいて成分を再調整します。
また、FCDでは出湯後に行う球状化処理や接種によってSiやMgなどが添加されるため、その増加量をあらかじめ考慮し、処理後に目標とする成分値となるよう出湯前の成分を調整しています。
5.除滓
溶湯表面には、溶解中に生成したスラグや酸化物などが浮上します。
これらが製品内部へ混入することを防ぐため、当社では除滓材を使用して「除滓(じょさい)」を行います。
除滓は一度だけではなく、炉から出湯する前、取鍋へ出湯した後、さらに鋳型へ注湯する直前にも行います。
各段階で溶湯表面のノロや異物を取り除き、できる限り清浄な状態で鋳型へ注湯できるよう管理します。
6.出湯と取鍋接種
温度と成分の確認が完了したら、誘導炉から取鍋へ溶湯を移す「出湯」を行います。
FCでは、出湯時に接種剤を添加する「取鍋接種」を行います。
接種は、鋳鉄の組織を適切に形成させるために重要な処理の一つです。
また、製品によっては取鍋接種に加えて、鋳型へ注湯する際の溶湯流へ接種剤を添加する「注湯流接種」を行う場合もあります。
7.FCDの球状化処理
FCDでは、黒鉛を球状化させるための「球状化処理」を行います。
球状化処理にはFC用とは異なる専用の取鍋を使用します。
取鍋底部にはポケットが設けられており、そこへ球状化剤、接種剤、カバー剤などをあらかじめセットします。
その上へ炉から溶湯を出湯することで球状化処理と接種を行い、FCDとして必要な溶湯をつくります。
球状化処理や接種によってSiやMgなどの成分が変化するため、出湯前の成分管理と処理後の確認を組み合わせることが重要です。
8.出湯後の成分確認
FC・FCDともに、出湯および必要な処理を行った後の溶湯を採取し、テストピースを作製します。
このテストピースを発光分光分析にかけ、実際に製品へ注湯する溶湯の最終的な化学成分を確認します。
FCでは原材料や溶解時の成分を管理しているため、出湯後の分析は主に最終確認として行います。
FCDでは、出湯前にMn、P、Sなどを確認・調整したうえで球状化処理と接種を行い、出湯後にもSiやMgなどを含めた最終的な成分値を確認します。
この最終分析は、実際に製品へ注湯した溶湯が規定された成分範囲を満たしていることを確認するための重要な検査です。
9.取鍋の選定と注湯計画
出湯した溶湯は、取鍋を天井クレーンで吊り上げ、注湯する鋳型まで運搬します。
当社では、FC用として容量500kgと3,000kg、FCD用として容量1.5tの取鍋を使用しています。
取鍋は単純に製品重量だけで選択するのではありません。
一度の出湯で複数の鋳型へ順番に注湯すると、時間の経過とともに取鍋内の溶湯温度は低下していきます。
そのため、製品重量、注湯する鋳型の数、注湯に必要な時間、後半の製品への注湯温度などを考慮して取鍋を選定し、製品の組み合わせや注湯順序を計画します。
当社では、できる限り一度の出湯で注湯する鋳型を5枠以下とし、出湯した溶湯のおよそ8割を使用できるよう、製品の組み合わせを調整しています。
こうした注湯計画によって、後半に注湯する製品についても適切な温度を確保できるよう管理しています。
10.注湯直前の温度確認
鋳型へ注湯する直前にも、取鍋内の溶湯温度を測定します。
測定した温度が製品ごとに設定した注湯目安温度より高い場合には、適切な温度まで低下するのを待ってから注湯します。
反対に、温度が低くなりすぎた場合には、そのまま注湯することはせず、溶湯を炉へ戻して再調整します。
注湯温度が適切でない場合、湯回りや焼きつき、引けなどさまざまな品質問題につながる可能性があるため、製品ごとに設定した温度を確認してから注湯することが重要です。
11.掛け堰への注湯
温度と溶湯の状態を確認したら、取鍋から鋳型の湯口に設置した「掛け堰」へ溶湯を注ぎます。
注湯中は、掛け堰内部が常に7~8割程度溶湯で満たされた状態となるように注湯量を調整します。
掛け堰内の溶湯量を一定に保つことで、鋳型へ流れ込む溶湯の速度や圧力を安定させます。
また、溶湯表面へノロを浮上させて鋳型内部への流入を抑えるとともに、空気の巻き込みを防止する役割もあります。
単に短時間で溶湯を流し込むのではなく、鋳型内部へ安定した状態で溶湯を供給することが重要です。
12.揚がりによる充填確認
注湯が進み、鋳型内部へ溶湯が充填されると、「揚がり」から溶湯の状態を確認できるようになります。
溶湯が揚がりの根元まで到達すると、揚がりヘッド内部に溶湯の光が見えるようになります。
当社では、この揚がりが明るくなる状態を確認しながら、鋳型内部への溶湯の充填状況を判断します。
揚がりは鋳型内部の空気やガスを逃がす役割だけでなく、溶湯が所定の位置まで充填されたことを確認するためにも利用されます。
13.出湯後10分の管理
溶湯は出湯した後も温度が低下し、接種や球状化処理の効果も時間の経過によって変化します。
そのため当社では、FC・FCDともに、出湯後10分を経過した溶湯による注湯を禁止しています。
複数の鋳型へ順番に注湯している場合でも、出湯から10分を経過した時点で残っている溶湯を新たな鋳型へ注湯することはありません。
10分を経過した溶湯は一度炉へ戻し、成分を再調整したうえで、再度必要な接種を行います。
FCDについては、球状化処理についても改めて行い、再び使用可能な状態へ調整します。
14.注湯後の処置
鋳型への注湯が完了した後、製品によっては押湯へ保温材を使用します。
押湯は、製品本体の凝固収縮によって不足する溶湯を補給する役割を持っています。
引け巣対策が必要な製品では、押湯部分へ保温材をかけて冷却を遅らせ、製品本体よりも長く溶融状態を保つことで、凝固時の溶湯補給を行いやすくします。
その後、鋳型を所定の時間冷却し、次の型ばらし工程へ移ります。
溶解・注湯では多くの条件を管理しています
鋳造における溶解・注湯は、原材料を溶かして鋳型へ流し込むだけの工程ではありません。
原材料の配合、化学成分、溶湯温度、除滓、接種、球状化処理、取鍋の選定、注湯順序、注湯速度、経過時間など、多くの条件を管理する必要があります。
また、同じ材質であっても製品の肉厚や重量、過去の品質実績などによって適切な注湯条件は異なります。
それぞれの製品に適した条件を設定し、その条件を確実に守ることが、安定した鋳物品質につながります。
次回は、鋳型へ注湯した溶湯がどのように冷却・凝固し、鋳型から鋳物を取り出すのか、「冷却・型ばらし」の工程をご紹介します。