鋳鉄 vs 製缶・溶接構造

鋳鉄と製缶・溶接構造は何が違う?

工作機械や印刷機械などの大型機械を支える構造部品には、鋳鉄鋳物が数多く使用されています。
一方、鋼板や形鋼などを溶接して製作する「製缶・溶接構造」も、大型機械や産業設備の構造部品に広く利用されています。

どちらも大型の構造部品を製造できる方法ですが、その材料や製造方法、得意とする形状、振動特性、設計変更への対応などには大きな違いがあります。

例えば、一般的な鋼材はFC(片状黒鉛鋳鉄)よりも高い引張強さや靭性を持っています。
また、鋼板を組み合わせる製缶構造では、必要な箇所に材料を配置することで構造全体を軽量化できる場合があります。

それでは、なぜ工作機械などでは、現在も重量のある鋳鉄鋳物が使用されているのでしょうか。

その理由を理解するためには、材料の「強さ」だけではなく、剛性、振動特性、加工性、形状自由度、製造数量、コストなどを含めて考える必要があります。

この記事では、鋳鉄鋳物と製缶・溶接構造のそれぞれのメリット・デメリットを比較し、どのような部品に適しているのかをご紹介します。

製缶・溶接構造とは?

製缶・溶接構造とは、鋼板、形鋼、鋼管などの材料を切断し、必要に応じて曲げなどの加工を行い、溶接によって組み合わせて目的の構造物を製作する方法です。

一つの鋳型から形状をつくる鋳造とは異なり、複数の部材を組み合わせながら構造をつくることが大きな特徴です。

鋼板の板厚や形状、リブの配置などを設計することで、必要な強度や剛性を確保しながら材料の使用量を抑えた構造をつくることができます。

また、鋳造のように製品形状を転写するための模型を基本的に必要としないため、一品物や少量品、設計変更が発生する可能性のある製品では、製缶構造が適している場合があります。

一方、複数の部材を溶接して製作するため、溶接による熱変形や残留応力、溶接部の品質管理など、製缶・溶接構造ならではの注意点もあります。

重量・軽量化では製缶構造が有利?

鋳鉄鋳物と製缶構造を比較したとき、大きな違いの一つが構造物の重量です。
一般に、製缶構造は鋳鉄鋳物よりも軽量な構造をつくりやすいという特徴があります。

ただし、これは「鋼が鋳鉄より軽いから」ではありません。

一般的な鋼の密度は約7.8g/cm³であるのに対し、鋳鉄はおおむね約7.0~7.3g/cm³程度であり、同じ体積で比較すれば鋼の方がむしろ重くなります。

それでも製缶構造を軽量化しやすい理由は、鋼材の強度や靭性を活かしながら、鋼板や形鋼を必要な箇所に配置し、比較的薄い部材で構造をつくることができるためです。

例えば、内部を空洞とした箱形構造にしたり、必要な部分だけにリブを配置したりすることで、使用する材料の量を抑えながら必要な強度や剛性を確保することができます。

一方、鋳鉄鋳物でも中子を使用して内部を中空にしたり、リブを設けたりすることで重量を抑えることはできます。
しかし、鋳造では溶湯を鋳型内部へ確実に充填させ、健全な鋳物を製造するために必要な肉厚を確保する必要があります。

そのため、同じような機能を持つ大型構造物を比較した場合、製缶構造の方が軽量化しやすいケースがあります。

軽量化が重要な部品では大きなメリットになります

部品の重量を減らすことが機械性能に直接つながる用途では、製缶構造の軽量化しやすさは大きなメリットになります。

特に移動する構造物では、軽量化によって慣性を小さくできるため、加減速性能の向上や駆動装置への負荷低減などが期待できます。

一方、工作機械のベッドなど、床に据え付けて使用する固定構造部では、必ずしも軽量化だけが最優先されるわけではありません。

このような部品では、重量だけでなく、剛性、振動特性、形状、加工性などを含めて構造全体を考える必要があります。

「強度」と「剛性」は分けて考える必要があります

製缶構造と鋳鉄鋳物を比較するとき、「鋼の方が強いのだから、製缶構造の方が優れているのではないか」という疑問が生じることがあります。

確かに、一般的な構造用鋼材はFC(片状黒鉛鋳鉄)よりも高い引張強さや靭性を持ち、引張荷重や衝撃荷重を受ける用途では鋼材が有利になる場合があります。

しかし、機械構造物の性能を考える際には、「強度」と「剛性」を分けて考える必要があります。

強度は「壊れにくさ」、剛性は「変形しにくさ」

強度とは、材料が荷重を受けたときに、破壊や永久変形にどれだけ耐えられるかを表す性質です。

一方、剛性は、荷重を受けたときにどれだけ弾性変形しにくいかを表します。

例えば、非常に高い強度を持つ材料を使用していても、部品の断面が薄ければ大きくたわむ可能性があります。
反対に、材料自体の強度がそれほど高くなくても、断面形状や肉厚、リブの配置などを適切に設計することで、高い構造剛性を持たせることができます。

そのため、「材料の引張強さが高い」という理由だけで、機械構造物としての性能を判断することはできません。

鋳造では断面形状そのものをつくり込むことができます

鋳鉄鋳物では、鋳型によって製品形状をつくるため、必要な箇所に肉厚を持たせたり、リブやボスを配置したり、中子によって内部を中空にしたりすることができます。

つまり、材料そのものの性質だけでなく、形状によって必要な剛性を確保する設計が可能です。

製缶構造でも、鋼板の板厚、箱形断面、リブや補強材などを適切に配置することで高い剛性を持たせることができます。

このため、鋳鉄鋳物と製缶構造のどちらが「剛性に優れている」と単純に決めることはできません。
必要な剛性、重量、形状、製造方法などを含めて、構造全体として比較する必要があります。

FCは引張には弱くても、圧縮には強い

FCの特徴を理解するうえで、引張荷重と圧縮荷重に対する性質の違いも重要です。

FCの内部には片状の黒鉛が存在しており、引張荷重を受けた場合には黒鉛の先端付近に応力が集中しやすいため、鋼材と比較すると引張強さや靭性では不利になります。

一方、圧縮荷重に対しては良好な特性を持っており、一般に圧縮強さは引張強さよりも大幅に高くなります。

そのため、FCを単純に引張強さだけで評価して「弱い材料」と考えるのは適切ではありません。

部品にどの方向から、どのような荷重が加わるのかを考え、その用途に必要な特性を持つ材料を選択することが重要です。

振動特性は鋳鉄の大きな特徴

工作機械や印刷機械などでは、機械の運転中にさまざまな振動が発生します。

例えば工作機械では、工具がワークを切削する際に発生する力が工具、主軸、テーブル、ベッドなどへ伝わり、機械構造全体を振動させることがあります。

こうした振動によって工具とワークの相対的な位置関係が変化すると、加工面の品質や加工精度、工具寿命などに影響する可能性があります。
そのため、工作機械の構造部品では、荷重を受けても変形しにくいことだけでなく、発生した振動を抑えることも重要になります。

「剛性が高いこと」と「振動が早く収まること」は別の性質です

振動を考える際には、剛性と振動減衰性を分けて考える必要があります。

剛性は、力を受けたときの変形しにくさに関係します。
一方、振動減衰性は、発生した振動のエネルギーを失わせ、振動を小さくしていく性質です。

そのため、高い剛性を持つ構造であっても、発生した振動が早く減衰するとは限りません。
機械の振動特性を考える際には、構造の剛性だけでなく、質量や材料の減衰特性なども含めて考える必要があります。

FCは振動減衰性に優れています

FC(片状黒鉛鋳鉄)は、一般的な鋼材と比較して振動減衰性に優れていることが大きな特徴です。

FCの内部には片状黒鉛が存在しており、この黒鉛を含む組織が振動エネルギーの減衰に寄与します。
そのため、機械から発生した振動を減衰させたい構造部品では、FCの特性を活かすことができます。

この振動減衰性は、工作機械のベッドやコラムなどにFCが使用されている理由の一つです。
また、高速で多くの機構が動作する印刷機械などでも、振動を考慮する必要がある構造部品に鋳鉄が使用されています。

「重いから振動を吸収する」だけではありません

鋳鉄製の大型構造部品は重量があるため、「鋳物は重いから振動を吸収する」と説明されることがあります。

しかし、構造物の質量が振動の応答に与える影響と、材料そのものが持つ振動減衰性は同じものではありません。

質量、剛性、減衰性はそれぞれ機械の振動特性に関係しており、鋳鉄の振動特性を単純に重量だけで説明することはできません。

FCの場合は、構造物として必要な質量や剛性を確保できることに加え、材料そのものが高い振動減衰性を持つことが特徴です。

形状自由度と一体化では鋳造に強みがあります

鋳鉄鋳物と製缶構造では、構造物をどのように形づくるかにも大きな違いがあります。

製缶構造では、鋼板や形鋼などを切断、曲げ、溶接して組み合わせることで構造をつくります。
そのため、箱形構造やリブによる補強など、比較的自由度の高い構造を製作することができます。

一方、鋳造では製品形状に合わせて鋳型を製作し、溶湯を流し込むことで形状をつくります。

そのため、リブ、ボス、曲面、肉厚変化などを一つの部品の中に設けることができ、中子を使用すれば複雑な中空部や内部形状をつくることもできます。

複数の機能を一つの鋳物にまとめることができます

大型機械の構造部品には、単に機械を支えるだけでなく、さまざまな機能を持たせる必要があります。

例えば、剛性を確保するためのリブ、他の部品を取り付けるためのボスや座面、重量を抑えるための中空部などを、一つの構造部品の中に設けることがあります。

鋳造では、こうした形状を鋳型や中子によって一体化できるため、複数の部材を接合せずに複雑な構造を製造できることがあります。

また、溶接による接合部を設けずに一体化できることも、鋳造ならではの特徴です。

製缶構造にも高い形状自由度があります

一方、製缶構造も形状自由度の低い製造方法ではありません。

鋼板の切断、曲げ、溶接などを組み合わせることで大型で複雑な構造物を製作でき、必要な部分だけに補強材を追加するといった対応も可能です。

特に、比較的単純な板構造や箱形構造では、鋳造用の模型を製作することなく構造物を製作できることが大きなメリットになります。

そのため、単純に「複雑形状なら鋳造」と決めるのではなく、形状の種類、接合箇所、製造数量、必要な精度などを含めて判断する必要があります。

設計変更や少量生産では製缶構造が有利な場合があります

鋳造では、基本的に製品形状を鋳型へ転写するための模型が必要になります。

一度模型を製作すれば同じ形状の鋳型を繰り返し製作できますが、製品形状を大幅に変更する場合には、模型の改造や新しい模型の製作が必要になることがあります。

そのため、開発段階で頻繁に形状が変更される製品や、一品のみ製作する大型構造物では、模型製作に必要な費用や時間が負担となる場合があります。

製缶構造では、図面やCADデータに合わせて鋼板などを加工し、溶接によって構造を製作できるため、鋳造と比較して設計変更へ対応しやすい場合があります。

この特徴から、試作品、一品物、少量品、設計変更の可能性が高い構造物では、製缶構造が合理的な選択となることがあります。

継続生産では鋳造の考え方も変わります

一方、同じ形状の製品を継続して製造する場合には、一度製作した模型を繰り返し使用することができます。

そのため、模型製作に必要な初期費用だけで鋳造と製缶構造のコストを比較することはできません。

製品の形状、重量、製造数量、溶接作業量、機械加工量などによって総合的な製造コストは変化するため、どちらが経済的であるかは製品ごとに判断する必要があります。

製造上の注意点もそれぞれ異なります

鋳鉄鋳物と製缶・溶接構造では製造方法が大きく異なるため、品質を確保するために注意すべき点も異なります。

どちらか一方が簡単な製造方法というわけではなく、それぞれの製造原理に応じた品質管理が必要です。

鋳造では溶湯の充填と凝固を管理する必要があります

鋳造では、金属を溶かして鋳型へ流し込み、その中で冷却・凝固させることで製品をつくります。

そのため、鋳型の状態、溶湯の成分や温度、注湯方法、製品形状や肉厚による冷却状態など、さまざまな条件が鋳物の品質に影響します。

条件が適切でない場合には、引け巣、ガス欠陥、介在物、湯回り不良など、鋳造特有の不具合につながる可能性があります。

そのため鋳造では、製品形状や材質に応じて鋳造方案を検討し、鋳型製作から溶解、注湯、冷却まで各工程を適切に管理することが重要です。

製缶構造では溶接による影響を考える必要があります

製缶・溶接構造では、複数の鋼材を溶接して一つの構造物をつくるため、溶接部の品質管理が重要になります。

溶接では局部的に材料を加熱・冷却するため、熱による変形や残留応力が発生することがあります。
また、溶接条件や施工状態によっては、溶接部に欠陥が発生する可能性もあります。

そのため、必要に応じて溶接方法や施工順序を検討し、変形を抑えるための対策や、溶接後の熱処理、検査などを行います。

鋳造と製缶では発生し得る不具合の種類は異なりますが、どちらも製造方法に応じた工程管理が品質を確保するうえで重要です。

切削加工性ではFCに強みがあります

工作機械や印刷機械の構造部品では、素材を製造した後に機械加工を行うことがあります。

特に工作機械のベッドやコラムなどでは、部品を取り付ける座面や基準面など、広い範囲に切削加工を行うことがあります。
そのため、素材としての性能だけでなく、製造後の切削加工性も重要になります。

FC(片状黒鉛鋳鉄)は、一般に切削加工性に優れた材料です。
内部に存在する片状黒鉛は、切りくずの分断などに寄与し、鋼材とは異なる良好な切削特性を持っています。

一方、製缶構造に使用される鋼材も一般的な機械加工が可能であり、加工性は使用する鋼材によって異なります。

そのため、機械加工を多く必要とする大型構造部品では、加工量や加工方法も含めて材料・製造方法を検討する必要があります。

コストはどちらが安いとは一概に言えません

鋳鉄鋳物と製缶構造を比較するとき、重要な判断材料の一つが製造コストです。

鋳造では、製品形状に合わせた模型の製作が必要になるため、初期費用が発生します。
そのため、一品のみを製造する場合や、形状変更を繰り返す場合には、模型費が大きな負担となることがあります。

一方、製缶構造では基本的に鋳造用の模型を必要としませんが、鋼材の切断、曲げ、組立、溶接など、それぞれの作業に工数が必要です。
複雑な構造になるほど、部品点数や溶接箇所が増え、製作工数が大きくなる場合があります。

鋳造では、一度模型を製作すれば同じ形状の鋳型を繰り返し製作できます。
また、製缶では複数の部材を加工・溶接して製作する複雑な形状を、一つの鋳物として製造できる場合があります。

そのため、単純に「模型が必要だから鋳物は高い」「型が不要だから製缶は安い」と判断することはできません。

製品形状、重量、製造数量、模型費、材料費、溶接工数、仕上げや機械加工の量などを含め、製品ごとに総合的なコストを比較する必要があります。

鋳鉄鋳物と製缶構造はどんな部品に向いている?

ここまでの違いを整理すると、それぞれの特徴を活かしやすい部品が見えてきます。

製缶・溶接構造が適している場合

  • 構造物の軽量化を重視する場合
  • 高い引張強さや靭性が求められる場合
  • 鋼板や形鋼を組み合わせやすい形状の場合
  • 一品物や少量品を製作する場合
  • 設計変更が発生する可能性が高い場合
  • 模型製作の初期費用を抑えたい場合

特に、板材や形鋼を効率よく組み合わせられる大型構造物では、製缶構造の特徴を活かしやすくなります。

鋳鉄鋳物が適している場合

  • 振動減衰性を重視する場合
  • 切削加工性を重視する場合
  • 大型で複雑な形状を一体で製造したい場合
  • リブ、ボス、中空部などを一体化したい場合
  • 圧縮荷重に対する特性を活かしたい場合
  • 同じ形状の製品を継続して製造する場合

ただし、これらはあくまで一般的な傾向です。
実際の材料や製造方法は、製品形状、要求性能、製造数量、コストなどを総合的に検討して選択する必要があります。

なぜ工作機械や印刷機械には鋳鉄が使われるのか

工作機械や印刷機械には、機械全体を支える大型の構造部品が数多くあります。

こうした部品では、単に大きな荷重に耐えられることだけでなく、機械を安定して支える構造、振動特性、機械加工のしやすさ、複雑な形状を一体で製造できることなど、さまざまな性能が求められます。

例えば工作機械のベッドでは、剛性を確保するためのリブ、重量を抑えるための中空部、他の部品を取り付けるための座やボスなど、さまざまな形状を一つの構造体に設けることがあります。

鋳造では、こうした複雑な形状を鋳型や中子によって一体で製造できます。
さらにFCは、振動減衰性や切削加工性に優れているため、機械加工を必要とし、振動の影響を考慮する大型機械の構造部品に適した特徴を持っています。

一方、軽量化を特に重視する構造物や、設計変更の多い一品物などでは、製缶・溶接構造の方が適している場合があります。

つまり、工作機械や印刷機械に鋳鉄が使われているのは、製缶構造よりすべての性能で優れているからではありません。


大型・複雑な形状、振動特性、加工性など、その部品に求められる性能と鋳鉄の特徴が合っていることが、現在も鋳鉄鋳物が選ばれている理由の一つです。

鋳鉄と製缶、どちらが優れているのか?

鋳鉄鋳物と製缶・溶接構造には、それぞれ明確な長所と短所があります。

製缶構造は、軽量化、鋼材の高い強度や靭性、設計変更への対応などに強みがあります。
一方、鋳鉄鋳物は、振動減衰性、切削加工性、複雑な形状を一体で製造できる形状自由度などに特徴があります。

そのため、「鋳鉄と製缶のどちらが優れているか」という問いに、一つの答えがあるわけではありません。

重要なのは、
部品に必要な性能、形状、数量、コストなどを考え、その用途に適した材料と製造方法を選択することです。

鋳鉄の特徴が必要とされる部品では鋳造を、製缶構造の特徴が適している部品では製缶を選択する。
それぞれの長所と短所を理解したうえで適材適所に使い分けることが、合理的なものづくりにつながります。

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