鋳鉄 vs 鋳鋼

鋳鉄と鋳鋼は何が違う?

鋳鉄と鋳鋼は、どちらも鉄を主成分とする材料であり、溶かした金属を鋳型へ流し込み、冷却・凝固させる「鋳造」によって製品をつくることができます。

製造方法だけを見るとよく似ていますが、材料としての性質には大きな違いがあります。

一般に鋳鋼は、高い引張強さ、伸び、靭性、耐衝撃性などを必要とする部品に適しています。
一方、FC(片状黒鉛鋳鉄)は鋳鋼ほどの引張強さや靭性を持たないものの、振動減衰性、切削加工性、圧縮荷重に対する特性などに特徴があります。

また、鋳鉄の中でもFCD(球状黒鉛鋳鉄)は、黒鉛を球状化することでFCより高い強度や伸びを持たせた材料であり、FCと鋳鋼の単純な二者比較だけでは説明できない特徴を持っています。

では、同じ鉄を主成分とし、同じ鋳造によって製造できる材料でありながら、なぜこれほど性質が異なるのでしょうか。

この記事では、FC、FCD、鋳鋼の違いを中心に、それぞれの特徴や適した用途についてご紹介します。

鋳鉄と鋳鋼を分ける大きな違いは炭素量

鋳鉄と鋳鋼はいずれも鉄を主成分とする合金ですが、大きな違いの一つが含まれている炭素量です。

一般に鋳鉄は鋼より多くの炭素を含んでおり、その炭素の一部が黒鉛として組織中に存在します。

FCでは黒鉛が片状に存在し、FCDでは球状化処理によって黒鉛を球状にしています。
この黒鉛の形状は、材料の機械的性質に大きな影響を与えます。

一方、鋳鋼は鋳鉄より炭素量が少なく、鋳鉄のように多量の黒鉛を組織中に持つ材料ではありません。

この成分や組織の違いが、引張強さ、伸び、靭性、振動減衰性、切削加工性など、それぞれの材料特性の違いにつながっています。

FC・FCD・鋳鋼では黒鉛の存在が大きく異なります

FC(片状黒鉛鋳鉄)

FCでは、その名称のとおり黒鉛が片状に存在しています。

片状黒鉛は、振動減衰性や切削加工性などFC特有の性質に関係する一方、引張荷重を受けた際には黒鉛の先端付近に応力が集中しやすくなります。

そのため、FCは鋼材と比較すると引張強さや伸び、靭性では不利になります。

一方、圧縮荷重に対しては良好な特性を持ち、振動を嫌う大型機械の構造部品などではFCの特徴を活かすことができます。

FCD(球状黒鉛鋳鉄)

FCDでは、溶湯に球状化処理を行うことで、黒鉛を球状にした組織をつくります。

黒鉛を球状にすることで、FCの片状黒鉛で生じやすい応力集中の影響を小さくすることができ、FCと比較して高い引張強さや伸びを得ることができます。

そのためFCDは、鋳鉄の形状自由度を活かしながら、FCよりも高い強度や靭性が必要な部品に使用されています。

ただし、FCDにもさまざまな材質があり、要求される引張強さ、伸び、硬さなどによって成分や組織の管理が必要になります。

鋳鋼

鋳鋼は、鋼を鋳造によって目的の形状にした材料です。

鋳鉄と同じように鋳型を使用して製造するため、鍛造や切削加工だけでは製造が難しい大型・複雑形状を一体でつくることができます。

一方、材料としては鋼であるため、一般にFCよりも高い引張強さ、伸び、靭性、耐衝撃性を持ちます。

そのため、大きな引張荷重や衝撃荷重を受ける部品など、FCでは必要な機械的性質を満たしにくい用途で鋳鋼が選択されることがあります。

引張強さだけを比べると鋳鋼が有利

FC、FCD、鋳鋼を比較する際、分かりやすい違いの一つが引張荷重に対する性質です。

FCは片状黒鉛による応力集中の影響を受けるため、伸びが小さく、引張荷重や衝撃荷重を受ける用途では注意が必要です。

FCDでは黒鉛を球状化することでこの影響を小さくしており、FCより高い引張強さと伸びを持たせることができます。

さらに高い靭性や耐衝撃性などが求められる用途では、鋳鋼が有力な選択肢となります。

ただし、ここでも重要なのは、
「引張強さが高い材料ほど、あらゆる部品に適しているわけではない」
ということです。

実際の機械部品では、引張強さだけでなく、圧縮荷重、振動、加工性、形状、製造性、コストなど、さまざまな条件を考える必要があります。

FCは圧縮荷重に対して良好な特性を持つ

FCは引張荷重に対しては鋼材より不利ですが、圧縮荷重に対しては良好な特性を持っています。

引張荷重では、片状黒鉛の先端付近に応力が集中しやすく、それがFCの引張強さや伸びを低くする要因の一つとなります。

一方、圧縮荷重では黒鉛による応力集中の影響が引張時とは異なるため、FCの圧縮強さは引張強さよりも大幅に高くなります。

そのため、FCを引張強さだけで評価して「弱い材料」と考えるのは適切ではありません。

機械のベッドやフレームなどでは、材料の引張強さだけでなく、どのような荷重を受けるのか、どの程度の剛性が必要なのかなど、構造全体として考える必要があります。

振動減衰性ではFCに大きな特徴があります

FCと鋳鋼を比較したとき、大きな違いの一つが振動減衰性です。

FCの内部に存在する片状黒鉛を含む組織は、振動エネルギーの減衰に寄与します。
そのためFCは、一般的な鋼系材料と比較して振動減衰性に優れています。

工作機械や印刷機械などでは、機械の運転中に発生する振動が加工精度や加工面、機械の安定性などに影響することがあります。

こうした振動を考慮する必要がある大型構造部品では、FCの振動減衰性を活かすことができます。

FCDはFCと同じ鋳鉄でも特性が異なります

FCDにも黒鉛が存在しますが、その形状はFCのような片状ではなく球状です。

黒鉛を球状にすることで応力集中を小さくし、引張強さや伸びなどの機械的性質を向上させることができます。

一方、振動減衰性については、一般にFCの方がFCDより優れています。

つまり、FCからFCDへ変更すれば単純にすべての性能が向上するわけではありません。
高い強度や伸びを重視するのか、振動減衰性などFCの特徴を重視するのかによって、適した材質は変わります。

切削加工性でもFCに特徴があります

鋳物は鋳造した形状のまま使用されるとは限らず、製品によっては鋳造後に多くの機械加工が行われます。

特に工作機械のベッド、コラム、テーブルなどでは、部品の取付面や基準面などに広い範囲の切削加工を行うことがあります。

FCは、一般に切削加工性に優れた材料です。

FCの組織中に存在する片状黒鉛は、切りくずを分断しやすくすることや潤滑的な作用などに寄与し、良好な切削特性につながります。

一方、鋳鋼は鋼としての高い強度や靭性を持つ反面、一般にFCと比較すると切削加工時の負荷が大きくなる傾向があります。

そのため、大型部品に多くの機械加工を行う用途では、完成品に必要な強度だけでなく、加工性も材料選定の重要な要素となります。

鋳鉄と鋳鋼では「鋳造のしやすさ」にも違いがあります

鋳鉄と鋳鋼は、どちらも溶かした金属を鋳型へ流し込んで製造しますが、鋳造するときの性質は同じではありません。

一般に鋳鋼は鋳鉄よりも高い温度で溶解・注湯する必要があり、凝固時の収縮も大きいため、鋳造方案や鋳型、押湯などについて鋳鋼に適した設計が必要になります。

また、溶湯を鋳型の細部まで充填させる流動性についても鋳鉄とは異なるため、同じ形状の製品であっても、FCで使用していた鋳造方案をそのまま鋳鋼へ置き換えられるとは限りません。

一方、鋳鉄は比較的低い温度で鋳造でき、一般に鋳鋼よりも流動性に優れているため、複雑な形状や薄肉部を持つ製品を製造しやすいという特徴があります。

凝固収縮の違いも重要です

金属は液体から固体へ変化する際に体積が変化します。
そのため鋳造では、凝固時に不足する溶湯を補うため、必要に応じて押湯などを設けます。

鋳鋼は鋳鉄と比較して凝固収縮が大きいため、引け巣などを防止するための押湯や鋳造方案が特に重要になります。

FCでは、凝固過程で黒鉛が晶出する際の体積変化が収縮を補う方向に作用するため、鋳鋼とは凝固の挙動が異なります。

ただし、FCであれば引け巣が発生しないという意味ではありません。
製品の肉厚差や形状、成分、温度、鋳造方案などによって引け巣は発生するため、製品ごとに適切な対策が必要です。

FCDにも独自の製造管理が必要です

FCDはFCより高い強度や伸びを得られる一方、その性能を確保するためには黒鉛を適切に球状化する必要があります。

そのため、FCDでは溶湯の成分管理に加え、球状化処理、接種、温度、処理後の時間などを適切に管理することが重要です。

黒鉛の球状化状態は製品の機械的性質に大きく関係するため、要求される品質に応じて組織や機械的性質を確認します。

「強い材料に変更する」だけでは済まない

ここまでの違いを見ると、FC、FCD、鋳鋼は単純に強度の順番だけで並べられる材料ではないことが分かります。

例えばFCで製造されている部品について、「もっと強い材料にしたい」という理由だけで鋳鋼へ変更すると、材料特性だけでなく、鋳造方案、製造条件、機械加工性、重量や形状、製造コストなどにも影響する可能性があります。

同様に、FCをFCDへ変更する場合にも、単純に引張強さが高くなるだけではありません。
必要となる溶湯処理や品質管理が変わり、振動減衰性などの材料特性にも違いがあります。

そのため、材料を選択する際には、
「より強い材料は何か」ではなく、「その部品にはどの性能が必要なのか」
を考えることが重要です。

FC・FCD・鋳鋼はどのように使い分ける?

FC、FCD、鋳鋼は、いずれも鋳造によって複雑な形状を製造できる鉄系材料ですが、それぞれ得意とする性能が異なります。

そのため、「どの材料が最も優れているか」ではなく、部品に必要な強度、伸び、靭性、振動特性、加工性などから適した材料を選択することが重要です。

FCが適している場合

  • 振動減衰性を重視する場合
  • 切削加工性を重視する場合
  • 大型で複雑な形状を一体で製造したい場合
  • 圧縮荷重に対する特性を活かしたい場合
  • 高い伸びや耐衝撃性を特に必要としない場合

こうした特徴からFCは、工作機械のベッド、コラム、テーブルなど、振動特性や加工性が重要となる大型構造部品に広く使用されています。

FCDが適している場合

  • FCより高い引張強さが必要な場合
  • 伸びや靭性が必要な場合
  • 衝撃や繰り返し荷重を考慮する必要がある場合
  • 複雑な形状を鋳造で一体化したい場合
  • 鋼に近い機械的性質と鋳造による形状自由度の両方を活かしたい場合

FCDは、ギア、プーリー、ハブなどの機械部品をはじめ、強度や靭性を必要とするさまざまな部品に使用されています。

また、FCDには要求される強度や伸びなどに応じてさまざまな材質があり、用途に合わせた材質選定が必要です。

鋳鋼が適している場合

  • 高い引張強さが必要な場合
  • 高い靭性や耐衝撃性が必要な場合
  • 大きな荷重を受ける場合
  • 鋼としての性質を持ちながら複雑な形状を一体で製造したい場合
  • 溶接性など鋼としての特性が求められる場合

鋳鋼は、高い機械的性質と鋳造による形状自由度の両方が必要となる部品で有力な選択肢となります。

一方、鋳鉄と比較すると鋳造温度が高く、凝固収縮も大きいなど製造上の違いがあるため、鋳鋼に適した設備や鋳造方案、製造管理が必要になります。

鋳鋼の方が強いなら、すべて鋳鋼にすればよい?

鋳鋼はFCより高い引張強さや伸び、靭性を持つため、「それならFCで作られている部品も鋳鋼にすれば、より丈夫な製品になるのではないか」と考えることができます。

しかし、部品に必要な性能以上の強度を持たせることが、必ずしもその部品の性能向上につながるとは限りません。

例えば工作機械のベッドでは、材料が引張荷重によって破断しないことはもちろん重要ですが、それだけで機械としての性能が決まるわけではありません。

機械全体を安定して支えるための剛性、加工中に発生する振動への対応、広い加工面を効率よく切削できる加工性、リブや中空部などを含む形状、製造コストなども重要になります。

こうした部品では、鋳鋼の高い引張強さや靭性よりも、FCの持つ振動減衰性や切削加工性などの方が、用途に適している場合があります。

つまり、鋳鋼へ変更することで向上する性能がある一方、FCから材料を変更することで失われる特徴もあります。

工作機械のベッドを鋳鋼にするとどうなる?

例えば、FCで製造されている工作機械のベッドを鋳鋼に変更した場合を考えてみます。

材料としての引張強さや靭性を高めることはできます。
しかし、もともとベッドに必要な引張強さをFCで十分に満たしているのであれば、それ以上の引張強さを持たせても、そのことだけで工作機械の加工性能が向上するとは限りません。

一方、材料を鋳鋼へ変更すれば、振動減衰性や切削加工性などもFCとは異なります。
また、鋳造温度や凝固収縮などの製造条件も変わるため、同じ鋳造品だからといって単純に材質だけを置き換えることはできません。

このように考えると、材料選定では「より強い材料を使用すること」よりも、
その部品に必要な性能を過不足なく持った材料を選ぶこと
が重要であることが分かります。

FCとFCDの使い分けも同じ考え方です

これは、FCと鋳鋼だけでなく、FCとFCDを比較する場合にも同じです。

FCDはFCより高い引張強さや伸びを持つため、強度だけを見ればFCDの方が優れているように見えます。

しかし、FCには優れた振動減衰性や切削加工性などの特徴があり、FCDでは球状化処理などFCとは異なる製造管理も必要になります。

反対に、FCでは必要な引張強さや伸びを確保できない部品であれば、FCDを使用することに大きな意味があります。

したがって、FCからFCD、FCDから鋳鋼というように「上位の材料へ変更する」という考え方ではなく、それぞれを異なる特徴を持った材料として考えることが重要です。

鋳鉄と鋳鋼、どちらが優れているのか?

鋳鉄と鋳鋼は、どちらも溶かした金属を鋳型へ流し込んで製造する鋳造材料ですが、その材料特性は大きく異なります。

鋳鋼は、高い引張強さ、伸び、靭性、耐衝撃性などに強みがあります。

FCは、引張強さや靭性では鋳鋼に及ばない一方、振動減衰性、切削加工性、圧縮荷重に対する特性などに特徴があります。

またFCDは、黒鉛を球状化することでFCより高い強度や伸びを持ち、鋳造による形状自由度を活かしながら高い機械的性質を必要とする用途に使用されています。

このため、鋳鉄と鋳鋼のどちらが優れているかを単純に決めることはできません。


引張強さ、伸び、靭性、振動特性、加工性、形状、製造性など、その部品に何が求められているのかによって、適した材料は変わります。

材料の特徴を理解し、必要な性能に合わせてFC、FCD、鋳鋼などを適切に使い分けることが、合理的な材料選定につながります。

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